中央アルプス南部:笹薮から展望の頂へ

中ア地図  中央線、飯田線と車窓展望を楽しんで、今では廃村になっている大平村までタクシーで入り、摺古木山(すりこぎやま)から安平路山(あんぺいじやま)付近で笹薮コギをしながら徐々に高度を上げ、後半は越百山や南駒ヶ岳からの展望を楽しみつつ、最後はこの山旅最高峰の空木岳に達して縦走路を振り返る、というのが今年の秋の連休の計画でした。展望の山歩きとして、なかなかドラマチックなコース設定だと思いませんか。

 不安だったのは、安平路山から越百山までが薮がひどく迷いやすいというガイドブックの情報でした。幸いガスに巻かれることもなく視界良好だったため順調に、思惑通り中央アルプス南部を楽しむことができました。薮から棒....ではなくて、薮から展望の頂をめざした山旅の報告です。

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[第1日]
 飯田駅からタクシーで大平、さらに林道終点の自然休憩舎まで入れた。料金は、7,890円。9月末の台風で荒れた林道を何とか走ってくれた運ちゃんに感謝。自然休憩舎は、戸じまりのできるしっかりとした建物。水場は10分ほど登ったところにある。ここに泊って安平路山を往復する人もあるようだ。置いてあったノートを見ると、「摺古木山までは行ったが、安平路山へは薮がひどかったのであきらめた。」とか、越百山から来た人が「奥念丈岳から安平路山間は特に注意」とか書いてある。ここから見えるはずの恵那山方面は雲。

摺古木山へは途中から2つのルートに別れる。我々は遠回りして自然園を経由する道をとる。自然園と呼ばれる摺古木山西方の稜線に出ると、ここからの展望の主役は南駒ヶ岳と空木岳。木曽駒ヶ岳は脇役。摺古木山頂手前に展望の良い露岩があり、中アのパノラマを撮影。左は雲海で、わずかに乗鞍だけが頭を出している。

 摺古木山山頂は一等三角点だった。木が茂って、北の方しか見えない。

一等三角点 安平路小屋
<摺古木山一等三角点> <安平路山と安平路小屋>

 地形図の2265m峰から北東に下ったところに安平路小屋。東に南アルプス、西に御岳山が望める。4年前に建てられた丸太作りの小屋で、入った半分が土間、ドアを隔てて奥の半分が板敷きの部屋。10人くらいならゆったりと寝られる広さ。水場は安平路山の方へ数分歩いた鞍部にある。

 小屋では先客6名が荷を広げている。中高年女性のグループだった。我々が挨拶をしながら入って行っても、スペースをあけてくれる様子がない。そのうちの一人が天井を見上げて、二階がある、と言う。見あげると、屋根裏に狭い蚕棚のようなスペース。それも、急な梯子を昇り降りしなければならない。その隅にはもうオジさんが一人いる。ああ、あのオジさんも追いやられてしまったんだなぁ、と思いながら、我々もザックを土間に置いて、寝袋だけを抱えて上に昇る。

[第2日]
 付近は膝くらいの笹薮。中高年女性グループを先にやって露払いをして貰おうと一緒に行った友人と打ち合わせていたが、幸いにもまったく濡れていない。安平路山は木が茂っているものの、木の間越しに南アルプスが見える。150度の方向に見える双耳峰は池口岳のようだ。安平路山の北面は、木の低いところがあり、 白山・御岳から北アが良く見える。松川乗越付近は肩までの笹薮。しかし、それほど強情な笹ではない。時々踏み跡が薄れて道をはずすが、尾根をはずさないように歩いているうちに、道に戻る。奥念丈岳に近づくと急に赤布が増える。笹薮は続く。笹よりも手ごわい這松の薮を何とか過ぎると南越百山。

越百山 雲湧く稜線
<越百山(左)と南越百山(右)> <雲湧く稜線>

 白砂青松、青い空に白い雲。突然、天国に飛び出したよう。稜線の縦走路がこんなにも歩きやすいものだったかと思う。越百山、仙涯嶺、南駒ヶ岳で展望を楽しみ、カールの底の摺鉢窪避難小屋に入る。20人程の先客がいた。20〜30代の男性が大半で、一人がまわりに声をかけて、最後にきた我々に場所をあけてくれる。

 ここの小屋も4年ほど前に建て替えられたもの。すぐ東側は百間ナギの崩壊地。真ん中が通路の土間で、両側が板敷きのオーソドックスな間取り。前後に出入口が2つあるだけで、窓は1つもなし。20人くらいでも広々と寝られる大きさ。近くに水場はない。安平路山南の水場から、明日の木曽殿越まで水は得られないので、それぞれが、ポリタンクとペットボトルに3〜4リットルの水を持ってきていた。ペットボトルは下から買ってきたミネラルウォーターで、私のは「安曇野の水」、友人は「カナダの水」だった(^_^;)。

[第3日]

南アルプス 八ヶ岳
<黎明の南アルプス>
中央左に光岳、右端の双耳峰は池口岳
<八ヶ岳>
左端に蓼科山、右寄りの最高峰が赤岳

 赤椰岳で、年賀状用に南アルプスからの日の出を撮ろうと考えていたのに、雲に遮られて駄目だった。それでも山は見える。空木岳にて360度のパノラマ撮影(空木岳からのパノラマ [QTVR][JPEG])。赤椰岳では塩見岳の左に見えていた富士が、空木岳では右側にくる。中央アルプスの縦走では、富士が南アルプスの向こう側を次第に動いて行くのが面白い。ここから、ほとんどの人たちは駒ヶ根側にくだる。我々は歩いたことのない木曽側へ。

 ダケカンバの葉は茶色くなり、ナナカマドも黒ずんでいて冴えない。木曽殿山荘のおじさんに、「今年の紅葉はあまりよくないですね。」と尋ねると、9月末の台風でやられてしまったとのこと。その前は良かったらしい。

 水場にお父さんと小学生3人の家族連れが休んでいる。山荘前で追い越された人たちだった。その中の小学2年生の男の子が私に、「おじさん知ってるよ。小屋の前で休んでいたでしょ。」と話し掛けてくる。うなづいていると、続けて大きな声で、「ガムテープのおじさんだ!」。昨日、倒木でつくったズボンの鉤裂 きに、5センチほどに切ったガムテープを張り付けていたのでした(^_^;)。

 急な道を下り始めると、昨日からずっと左手に見下ろしていた糸瀬山が、見上げるようになってくる。

 伊奈川の林道を南にダムまで下ればタクシーが呼べるとのことだった。林道歩きは嫌だし、古い道を歩いてみたくもあり、逆に北へ八丁峠をめざす。中央アルプスでは珍しい前山越えのルートだ。所々で道が崩れていたものの、とてもよい雰囲気の広葉樹の林があった。

 無人の倉本駅から中央西線に乗る。南駒ヶ岳や空木岳が瞬間的に見えた。充実した山歩きだった。

[データ]

【日 程】1994年10月8〜10日
【山域名】中央アルプス
【山 名】摺古木山、安平路山、奥念丈岳、越百山、仙涯嶺、南駒ヶ岳、赤椰岳、空木岳
【天 候】曇り時々晴れ
【メンバー】友人H、私
【地形図】1:50,000「妻篭」「飯田」「赤穂」「上松」
【資 料】『日本300名山ガイド 西日本編』
【タイム】
 第1日(実歩行時間3時間15分)
  摺古木山登山口(自然休憩舎)12:10→14:30摺古木山14:40→16:20安平路小屋
 第2日(実歩行時間9時間15分)
  安平路小屋5:25→6:20安平路山6:30→8:05松川乗越→10:00奥念丈岳10:35→13:15越百山13:35→16:05南駒ヶ岳16:25→16:55摺鉢窪避難小屋
 第3日(実歩行時間7時間)
  摺鉢窪避難小屋5:00→5:40赤梛岳6:25→7:20空木岳7:50→8:40木曽殿越9:00→10:35六合目10:55ー>12:35八丁峠12:45ー>14:40倉本駅

 安平路山から南越百山の間は、笹薮で踏み跡が一部不明瞭なところがあります。 尾根をはずさなければ大丈夫ですが、霧で視界不良の時は要注意です。初心者だ けの場合は避けたほうが良いでしょう。展望が主目的なら、越百山以北がお勧め です。

Walstone

(1994/10/21記 Nifty-serve FYAMAP MES-6 #00025)