南アルプス縦走:北岳〜聖岳、上河内岳

 一週間の縦走をしてきました。南アルプスの3000m峰では唯一登っていなかった聖岳が目標でした。六日目に到達した聖岳では霧で展望が得られなかったため、翌日の素晴らしい天気に、聖平から登り直しました。最後の上河内岳の静かな山頂で、充実した縦走を振り返ることができました。

【日 程】1991年8月10日(土)〜17日(土)
【山域名】南アルプス
【山 名】北岳、間ノ岳、北荒川岳、塩見岳、本谷山、烏帽子岳、小河内岳、荒川前岳、荒川中岳、赤石岳、大沢岳、中盛丸山、兎岳、聖岳、上河内岳
【メンバー】単独
【地形図】1:50,000「韮崎」「市野瀬」「大河原」「赤石岳」「井川」
【タイム】

〈第一日〉
甲府駅前7:36⇒9:45広河原9:50→12:30大樺沢二俣→15:20北岳肩
〈第二日〉
北岳肩6:50→7:25北岳7:30→9:20北岳山荘→10:40間ノ岳10:50 → 11:30農鳥小屋分岐12:00→14:10熊ノ平小屋
〈第三日〉
熊ノ平小屋4:55→7:50北荒川岳8:15→10:35塩見岳東峰10:45→10:50塩見岳西峰11:00→11:45塩見小屋12:00→13:50本谷山→14:35三伏峠小屋
〈第四日〉
三伏峠小屋5:00→5:50烏帽子岳6:10→7:40小河内岳8:00→9:55板屋岳→10:50高山裏11:35→14:35荒川前岳14:40→15:00荒川中岳小屋
〈第五日〉
荒川中岳小屋5:05→6:05荒川小屋6:15→6:55大聖寺平→7:15だましの平7:30→8:10小赤石岳8:25→8:50赤石岳9:40→11:05百間平11:15→11:45百間洞幕営地
〈第六日〉
百間洞幕営地4:15→6:10大沢岳6:25→7:05中盛丸山7:55→8:55小兎岳9:20→9:50兎岳10:15→12:25聖岳(奥聖岳往復)13:05→14:30聖平
〈第七日〉
聖平4:05→5:45聖岳(奥聖岳往復)7:00→7:50聖平8:00→10:10上河内岳11:45→13:00茶臼幕営地
〈第八日〉
茶臼幕営地5:50→6:35横窪沢小屋6:40→8:00ヤレヤレ峠8:20→8:45畑薙大吊橋→9:45畑薙第一ダム9:50→10:20途中車に乗せてもらう⇒10:25白樺荘13:30⇒17:05新静岡センター

第一日(8/10)
 食糧の関係では北に食事付きの小屋があって南から入る方が有利だが、2,3日は天気が悪そうなので、南で良い天気を期待したいため北から入り、両俣小屋経由とする。ところが広河原についてみると快晴なので、北岳に向かう。しかし大樺沢二俣あたりからガスが出てくる。大樺沢の雪渓は全くなし。二俣に北岳山荘の看板「土日は混む(1畳に3人)のでできるだけ他の小屋にいってほしい、夕食を頼む人は午後5時までに着くように。」稜線に出てもガスで見えず。土曜日で小屋は混みそうなので予定を変更して、テントにする。

南アルプス地図

第二日(8/11)
 本日は熊ノ平までで余裕があるので明るくなってから出発。北岳山頂はガス。笛を吹く人あり。八本歯分岐を過ぎたあたりからガスが切れ始める。北岳山頂付近、間ノ岳がときおり見え、富士山も見える。夫婦、小学生の女の子2人、おばあさんの3代のファミリーあり。以後、塩見岳付近まで前後して歩く。北岳山荘を過ぎるとまたガス。間ノ岳でも視界なし。時間があるので農鳥側に下り、巻道をいく。農鳥小屋の分岐点で昼食。やや風あり。巻道は意外にアップダウンがある。水場で大井川源流の水を飲む。三国平手前にお花畑。小屋に着いてのコーヒーがうまい。以来、毎日到着するとコーヒー。小屋はほどほどに混む。明日の行程は長いので早立ちするために、小屋の朝食が遅いようなら朝は自炊にしようと思っていたが、朝食は4時からというので2食付きとする。小屋の食事は料金が高いだけあっておいしい(天プラ)。昨日はあまり食欲がなかったが今日はおかわりをする。小屋で会った人。隣のいびきの大きい人:停年過ぎ(?)の男性、広河原から小屋を順番に泊まって今日で6泊目の由、以前は離島めぐりをしていたという、自分が着いた時からごろごろしていた。隣にいた青年:聖岳まで行きたいと言っていたがテントをもっていないので思案していた、三伏峠以降見かけなくなる、塩川におりたか。腰に熊の毛皮をつけた田中角栄のようなおじさん:コーヒーを飲んでいる時に到着して話しかけられた、百間洞山の家の倒壊を知らない、惑星直列についていいかげんなことをいう、変な人だと直感した(当たっていた)ので以後できるだけ近づかないようにする。夕方雲が切れて農鳥岳が見える。隣の人のいびきが大きいことがわかったので、寝る時二階の隅へ移動。

間ノ岳タカネビランジ
<熊ノ平から間ノ岳><タカネビランジ.背景は塩見岳>

第三日(8/12)
 朝起きると星が見える。稜線に出ると雲はあるものの上空は快晴で間ノ岳、農鳥岳、塩見岳が見える。昨日の変なおじさんが一人で大声を出しながら先に行った。5人のファミリーや自炊の夫婦連れなどと前後しながら歩く。夫婦連れの奥さんにブルーベリーを教わりフィルムキャップに採集。北荒川岳までは塩見岳が見えていたが、塩見岳に登り始めるとガスが出て来て、塩見岳山頂では全くのガスの中。お茶もわかさずパンを少しかじっただけで下る。塩見小屋の外で休憩。三伏峠まで意外に距離がある。三伏峠の小屋は古いものが2棟あり、寝具付きと寝具なしに別れているようだった。小屋でも水はもらえるようだったが、水場まで往復する。夕食は安い分だけ貧しい(ハンバーグ)。飯が少ないようなことを言われたがおかわりをする。6時頃から強い雨。小屋のトタン屋根に雨が当たりラジオの音がよく聞こえないほどの激しさ。少し小降りになった頃をみはからってトイレ。夜中に変なおじさんが大声で寝言をくりかえしたため、目がさめる。山では12時前後に目がさめてしまう。そのあとは2時間後、1時間後、30分後、というように時計を見る。

小河内岳クモマベニヒカゲ
<小河内岳.左遠方に兎岳、大沢岳><マルバダケブキとクモマベニヒカゲ>

第四日(8/13)
 小屋の中で最初に起きる。雨はやんでいて、星空。外の椅子が濡れているので、小屋の入口で朝食。昨夜の雨のため草露で濡れる。昨日まで見えなかった御岳、中央アルプス、北アルプスが見える。快晴。夫婦連れと前後しながら歩く。昨夜は三伏沢の小屋に泊まったそうだ。他には外国人1人だけだったという。小河内岳避難小屋は比較的きれい。小河内岳山頂には珍しくワンゲルがいた。高山裏へ1kmのところで休憩。イチゴがある。高山裏小屋の前で昼食。日向は暑い。小屋の親父は無愛想。夫婦連れもくる。鞍部で3人連れが昼食中。水場で米を研ぎ、水を補給。単独行の女の子に追いつく。荒川岳のカールの登りはきつい。モレーンに出たところで単独行の男性(酒井さん)とともに休憩。登っている頃からガスが出てくる。稜線に出てもなにも見えず。中岳小屋は、3人連れのおじさん、2人連れの大学生、富士山を写す人、写真をとりに来た人、単独行の男性(角屋敷さん)など20人くらいが泊まる。夫婦連れと酒井さんは荒川小屋へ行ったらしい。単独行の女の子も遅れて到着。今年はインターハイでヘリの荷揚げがあったため、灯油ストーブがあり、食事もできる由。食事の際には湯がもらえた。

高山裏小屋赤石岳山頂にて
<お花畑の中の高山裏小屋><赤石岳山頂にて>

第五日(8/14)
 朝から霧。荒川小屋の水場で水を補給。ガスの動きが激しく、ときどき山頂方面が見える。赤石小屋への分岐点で赤石岳を往復して来た夫婦連れと会う。赤石岳山頂には大勢の人。ときどき霧が晴れて、荒川岳や小赤石岳が見えるが、聖岳は見えず。赤石岳山頂付近には石が直立した奇妙な地形あり。山腹付近の岩は確かに赤い。百間平付近では霧でまわりの山は全然見えない。水場の近くにテントをはり昼食。隣に3人連れ(山城さんたち)のテント場を確保する。百間洞山の家まで往復。小屋は壊れているが、シートを張って板を渡してあるので一人くらいはなんとか寝られそう。頭を洗い体を拭く。聖岳が見える。

大沢岳聖岳
<大沢岳の登山者.遠景は南ア北部の山々><朝の聖岳>

第六日(8/15)
 今日の行程は長いので早起きする。聖岳を入れて星の写真をとろうと岩の上にカメラを置きバルブにセットするが、5分くらいするとライトで照らしてくる人がいるためうまくいかない。大沢岳山頂の手前で日の出。快晴で中央アルプス・北アルプスも見える。角屋敷・成田・山城さんたちと前後しながら歩く。彼らを点景に入れながら写真をとる。小兎岳あたりを歩く頃からガスが出てくる。小兎岳の手前にテント3、4張可能。水場は下り5分。兎岳の三角点はやや離れているが往復する。兎岳避難小屋の前はゴミの山で臭いが、小屋はなんとか寝られそう。聖岳の登りは思ったほどかからずに山頂に到着。ガスでなにも見えず。奥聖を往復して下る。トリカブトの花ばかりが咲いている。ガスのため良い雰囲気。聖平小屋は真新しくて木の香りがする。テント場は広いが、団地のよう。

早暁の富士中盛丸山と大沢岳
<聖岳から早暁の富士><中盛丸山と大沢岳.遠くに御嶽と中ア、北ア>

第七日(8/16)
 山城さん達と成田さんは光岳に向かい、角屋敷さんは聖沢を下山するため、別れる。ゆっくり茶臼小屋に向かう予定だったが、天気があまりよいので気が変わり、聖平にキスリングを置いてカメラ2台・望遠ズーム・水筒・双眼鏡を持って聖岳に登る。日の出が近いのでスピードをあげる。山頂下の富士山の登りのようなところで日の出。頂上には数人。荒川中岳小屋にいた女の子が山頂にテントを張っていた。今までにも増して天気が良く登り返した甲斐があった。双眼鏡で立山・剣を確認する。仙丈と塩見の間に遥か遠く山が見える(蓼科山)。奥秩父も美しい。安部奥の山・竜爪・愛鷹山・伊豆の山もわかる。山城さん達が歩いているはずの光岳方面の写真をとる。奥聖付近で朝日に光るチングルマが美しい。聖岳山頂では赤石岳に隠れてみえない悪沢岳が、奥聖までくると見える。頂上に1時間あまりいて下山。聖平まで50分で下る。荷が軽いと楽。聖平で荷を背負うと重くて、上河内岳までが長い。カメラ2台・水筒・チョコレートだけを持って山頂へ。上河内岳山頂は縦走路からはずれるため人が少なく静かでとても良い。残してあったわずかなフィルムも使い切ってしまい、山を見ながらボーッと過ごす。もう茶臼小屋は近いので、ガスで見えなくなってしまうまでここにいようと決める。チョコレートも1箱食べてしまった。結局山頂には1時間45分いた。1週間の縦走の最後にふさわし至福の時間だった。茶臼小屋にはビールがあると聞いていたので親父さんに注文するとないといわれたが、内緒だといって1本出してくれた。他の人は断わられていたので、多少は髭づらが効いたのかもしれない。他のテントから少し離れて最後の夜を静かに過ごそうとやや狭いが隣が1張りあるだけのところにしたが、これが失敗だった。隣のテントは30代半ばの高校教員の2人組で、学生時代は山岳部か何かで、今日たまたま会った教え子を呼んで酒をのみながら説教臭い話を長々としていた。気が滅入った。

茶臼岳〜光岳聖岳赤石岳悪沢岳
<聖岳から茶臼岳〜光岳、眼下に聖平><上河内岳から聖岳赤石岳悪沢岳>

第八日(8/17)
 すばらしい天気だったが、フィルムはないし、下山して温泉に入ろうと思ったので、茶臼岳へ登るのはやめた。スピードをはやめて下る。1回転ぶ。何人か追い抜く。横窪沢小屋も新しい。聖平小屋と同じような感じ。ここにこんなに大きな小屋が必要なんだろうか。ヤレヤレ峠で紅茶とビスケット。畑薙大吊橋では大学生2人組の写真を撮ってやる。畑薙ダムから上河内岳が見える。白樺荘に向かって歩いていると、上河内岳で会った人が車に乗せてくれた。白樺荘(建設省長島ダム工事事務所製作の「奥大井 Information Box」赤石温泉白樺荘のページへ)の風呂は混んでいたが、少し時間がたつとすいてきた。缶ビールにヤキトリ・親子どんぶりなどを食堂で食べる。バス停で温泉に入りにきた地元のおばさんと話す。アセモなどに効くのでポリタンクにつめて帰るという。バスは4台出た。新静岡センター17:05着。夕食に寿司を食べる。

Walstone

(1991/08/31記)