奥茶臼山と中央構造線博物館

奥茶臼山地図

奥茶臼山

 今年の春の連休は、5月1〜3日と奥茶臼山に行って来ました。奥茶臼山は赤石岳をはさんで笊ヶ岳のちょうど反対側にある標高2473mの山です。普通のガイドブックには、まず出ていません。『南アルプス静寂と秘境を求めて』(平口善朗ほか、光陽出版社)に紹介されているのを見つけました。平口氏は、この中で特に展望に関して絶賛しています。

 曰く、「南ア主稜を西側から見る圧倒的な展望の山」
 曰く、山頂付近は「展望はよくないが、30メートルも南側へ進むと、(中略)。これだけの大展望は、白根南嶺の笊ヶ岳に勝るとも劣らないものだ。」

 さらに解説の概念図には、奥茶臼山山頂直下の「飯場の空地は笊ヶ岳にまさる大展望台」とあります。これだけ言われては行かずばなりますまい。

 問題は登山ルートです。一般の登山道はなく、12.5kmの青木林道(標高差1000m弱)を歩いてから伐採用の作業道を登ることになります。展望のためとはいえ、このルートを往復するのはあまりに辛い。地図を見ると、しらびそ峠が近くにあります。奥茶臼山から南西へ伸びる尾根は5kmほどで尾高山へ、さらに、しらびそ峠へと続いています。奥茶臼山から尾高山の間は道はなく、薮こぎ倒木くぐりになりそうですが、残雪期だし、距離は短いし、奥茶臼山からなら全般に下りになるし、尾高山まで行けば後は遊歩道があるということだし、これで行こうということになりました。伊那大島-(タクシー)→青木林道〜奥茶臼山〜尾高山〜しらびそ峠-(タクシー)→飯田という行程で山中2泊の予定です。

 前置きが長くなりましたが、それは中味がないからです(^_^;)。北アルプス、中央アルプスはもちろんのこと、間近にそびえているはずの赤石岳荒川岳さえ見えませんでした。ガスと膝時々腿までのぐずぐずの雪のため、尾高山しらびそ峠も諦め、往復25kmの林道歩き(;_;)。青木林道は鹿と地質の観察には絶好の林道でした(マケオシミ(^_^;)。

奥茶臼山
<青木林道1850m地点から奥茶臼山> <林道には鹿が何頭も>

【日 程】1994年5月1〜3日
【山域名】南アルプス
【山 名】奥茶臼山(2473.9m)
【天 候】曇り
【メンバー】H、H2、私
【地形図】1:50,000「赤石岳」
【タイム】
 第一日(実歩行時間6時間15分)
 伊那大島10:25⇒10:50中央線博物館11:15→11:35青木林道入口12:10→14:15作業小屋(標高1600m)14:25→17:00林道終点17:05→19:00林の中(幕営)
 第二日(実歩行時間7時間)
 林の中6:30→9:30飯場跡→9:50奥茶臼山10:50→11:00飯場跡→14:00林道終点14:20→15:15林道途中(幕営)
 第三日(実歩行時間3時間20分)
 林道途中6:50→8:10作業小屋(標高1600m)8:25→9:35林道入口9:55→10:45深ヶ沢11:45→12:30伊那大島

 往き帰りの飯田線からも南アルプスは見ることができず、帰りに小渋川を渡る時タクシーの窓から赤石岳がちらりと見えただけでした。

Walstone

(1994/05/05記 Nifty-serve FYAMAP MES-6 #02895)

大鹿村中央構造線博物館

 奥茶臼山へ向かうタクシーの中で、運転手に大鹿村には中央構造線博物館ができたはずだがと聞くと、すぐ近くを通るとのことで、寄ってもらいました。

 1階の展示室は、中央構造線の露頭のパネル写真と露頭のはぎ取り標本、様々な岩石標本、立体地質模型。岩石標本は切断した面を磨いてあって見やすくしてあります。さして広くはないこの地域に実に色々な岩石があるものです。じっくりと時間をかけて見学したいところでした。2階は大西山の大崩壊の様子のパネル、ベランダに出るとその大西山を眼前に眺めながらのテープによる解説。

 博物館の規模は小さく、岩石標本と地質模型以外は、何だこんなものかといった印象もありましたが、特筆すべきは博物館の立地条件と行事活動でしょう。博物館自体が中央構造線の真上に建っていて、付近には断層の露頭や断層に由来する地形を観察することができます。中の展示室よりは、野外の自然が本来の展示物なのです。私たちも道すがら、尾根が断層に切られてできた三角末端面やケルンコルとケルンバット、地蔵峠北の中央構造線の露頭を見ることができました。博物館の今年の行事予定は目白押しで、岩石園講義、親子で露頭観察会、山村留学講座、講演会などなど、このような小規模な博物館としては立派なものだと思います。

中央構造線露頭 三角末端面
<中央構造線の露頭> <中央構造線による三角末端面>

 資料を2冊購入しました。1つは、23ページの手作りの小冊子『延長25キロの博物館 大鹿村の中央構造線』です。付近で見られる露頭や地形をスケッチ入りで紹介してあるので、見学のテキストとして最適です。100円。

 もう1つは、簡易製本149ページの『伊那谷構造盆地の活断層と南アルプスの中央構造線』(松島信幸・岡田篤正)。口絵に航空写真と立体視写真があって、第1部伊奈谷入門編、第2部伊奈谷南部域[下伊那]、第3部伊奈谷中部域[上伊那南部]、第4部中央構造線、となっています。地質と地形の論文ばかりで、展望には関係ないかというと、さにあらず。随所に松島さんの展望図が挿入されています。例えば、「第2図飯田市伊賀良大瀬木・飯田市立旭ヶ丘中学校校庭から南アルプス・伊奈山脈・竜東丘陵地帯を見る」、「図29豊丘村上空から中央アルプス越しに御嶽山を見る」、「図34陣馬形山から中央アルプスと伊奈盆地」、などです。もともと地質や地形の説明のための図ですが、これらのスケッチからは松島さんの山岳展望に関する趣味が匂ってきます。「図21竜東側から風越山・臼井原・念通寺断層の断層崖を見る」と題されたスケッチにも、安平路山や虚空蔵山、風越山がしっかりと同定されています。松島さんは「しらびそ峠1833m・峠から南アルプス南部のパノラマ・展望図」を描かれている方です。

展望の山旅のはずが地形地質観察と博物館見学の旅になってしまった Walstone

(1994/05/05記 Nifty-serve FYAMAP MES-6 #02896)


大鹿村中央構造線博物館のホームページはこちらにあります。