朝日連峰縦走:以東岳〜大朝日岳〜祝瓶山

地勢図

 朝日連峰を縦走してきました。昨年、天気が悪くて取りやめてしまったもので、今年の夏は、さらに悪そうだったのですが、ちょうど晴れた期間に合わせることができました。東京から東北へ向かう高速バスが空いてくる、お盆の終わりに計画したのが幸いしました。山小屋も空いていたこと、鳥海山と月山や、蔵王、吾妻、飯豊の連峰など、ふだん見られない山々を眺められたことなど、快適な山行となりました。ただ、日本アルプスに比べて標高が低いためか暑いのには参りました。

【日 程】2009年8月16日(日)〜19日(水)
【山域名】朝日山地
【山 名】オツボ峰、以東岳、三方境、寒江山、竜門山、西朝日岳、大朝日岳、平岩山、大玉山、祝瓶山
【天 候】ほぼ晴れ
【同行者】なし
【地 図】20万分の1地勢図「村上」「新潟」、1:50,000地形図「大鳥池」「朝日岳」 ※右の地図をクリックすると、5万分の1地形図が別ウィンドウに表示されます。
【タイム】

〈第一日〉(実歩行時間6時間30分)
泡滝ダムバス終点 9:45 → 9:55 泡滝ダム → 12:45 大鳥小屋 13:00 → 15:45 オツボ峰 → 16:45 以東岳 16:50 → 17:00 以東小屋
〈第二日〉(実歩行時間6時間50分)
以東小屋 5:55 → 6:00 以東岳 6:25 → 7:40 中先峰 → 8:15 狐穴小屋 8:20 → 8:30 天狗角力取山分岐 8:35 → 8:45 三方境 → 9:10 北寒江山 → 9:40 寒江山 9:50 → 10:50 竜門小屋 11:20 → 12:45 西朝日岳 12:50 → 14:05 金玉水 14:10 → 14:30 大朝日小屋
〈第三日〉(実歩行8時間30分)
大朝日小屋 4:30 → 4:40 大朝日岳 5:50 → 7:00 平岩山 7:10 → 8:00 北大玉山 8:05 → 9:10 大玉山 9:15 → 12:00 祝瓶山稜線 12:10 → 12:20 祝瓶山 12:30 → 13:05 一ノ塔 → 15:20 吊橋 15:30 → 16:00 角楢小屋
〈第四日〉(実歩行時間1時間50分)
角楢小屋 5:05 → 6:15 針生平 → 6:55 徳網バス停

第一日(8/16)
 前夜東京発酒田・鶴岡行きの高速バスで鶴岡へ。鶴岡から庄内交通バスと、あさひ交通バスを乗り継いで東大鳥川上流の泡滝ダム手前のバス終点まで。バスの乗客は私の他は一人だけ。下山して待っている人が3人いた。終点から泡滝ダムへの途中が林道が広くなって駐車場になっていて15台が駐車していた。山形、庄内ナンバーの他に関東地方の車が多い。ダム付近から山道へ入る。東大鳥川沿いに進む。対岸の斜面に土を被った雪の大きなかたまりが残っている。下山してきた12人の中高年女性グループとすれちがう。茸採りらしい籠を背負った人が私を追い越して、登山道からブナ林の斜面に入っていった。

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<登山バス終点> <朝日連峰登山口> <冷水沢の吊橋>

 冷水沢の吊橋を過ぎ、次の吊橋を渡ってしばらく進むと、ブナ林の中の急登となる。登りながらヤマアジサイの写真を撮っていると、若い女性が下りてきて声をかけられた。後でわかったことだが、この人が以東小屋の管理人だった。急登が終わり平らな道に出れば大鳥小屋は近い。大鳥小屋の前に、以東小屋に泊る人は大鳥小屋で宿泊者数の状況を確かめてから行くようにという意味の看板が出ている。大鳥小屋の管理人に聞くと昨夜の以東小屋は12人のグループ(先ほどすれ違った人たち)を始め25人が泊ったが、お盆休みも終わりなので今日はかなり少ないだろうとのこと。今年の夏の天気は異常で、昨日あたりからようやく良い天気になったそうだ。

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<ブナ林> <ニッコウキスゲとヒメサユリ> <ミヤマリンドウ>

 以東岳への登りはオツボ峰コースをとる。標高1400m付近まで登ると草原状になり、池塘も現れてくる。黄色いニッコウキスゲがちらほらと咲いている。よく見るとピンクのユリが二、三輪。ヒメサユリのようだ。登山道沿いには青紫のミヤマリンドウが多い。チングルマはすべて綿毛になっていて、花があるのは紫のタカネマツムシソウとミヤマリンドウで、つぼみのリンドウもたくさんある。白いのはハクサンイチゲとウメバチソウか。

 午前中は青空だったのが、だんだん雲が湧いてきた。以東岳の右肩にポツンと以東小屋が見える。雲は多くなったが、上空の高い所は晴れているようなので明日の天気の心配はなさそうだ。以東岳山頂の三角点は一等三角点だった。雲でまわりの山が見えなくなってしまったので、小屋へ下る。

 小屋には先客が二人。水場は少し下らなければならないようなので、着替える前に水を汲みに向かう。雪渓の雪解け水で非常に冷たい。この後、同じ登山バスで来た人と、八久和川を遡行してきた人(沢の中で4泊したそうだ!)が小屋に到着して、この夜の宿泊者は5人だった。小屋の管理人はアルバイトの女子学生だったそうだが、今日下山して管理人はいない。そういえば登ってくるときに声をかけられた女性が下山していく管理人だったのだ。宿泊料1500円を箱に入れて記帳。

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<以東岳と以東小屋> <以東岳一等三角点> <朝の月山>

第二日(8/17)
 以東岳山頂へ日の出を見に行く。遠方には雲があって雲の中からの日の出となる。遠望はきかないが、周辺は昨夜の雲がすっかりとれて、これから向かう大朝日岳までの主稜線が見渡せる。右の方には最後の目標の祝瓶山も頭を出している。反対側の眼下には、昨日過ぎてきた大鳥池。大鳥池は熊の毛皮を広げたような格好をしているのだと同宿の人に教えられた。確かに頭と手・脚がそろっている。北北東には月山が近い。小屋へ戻ってから、月山の左遠方に鳥海山が見えていることに気づいた。

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<以東岳から見下ろした大鳥池> <朝日連峰主稜線(左端に大朝日岳)> <狐穴小屋と以東岳>

 以東岳からいよいよ主脈縦走の始まり。中先峰へは笹原の中をゆるやかに下る。タカネマツムシソウ、ツリガネニンジン、ハクサンイチゲ。三方境の手前に狐穴小屋。小屋の前に流水あり。バケツに缶ビールが冷やしてあって、一本800円也。左手の木道を進み高松峰と三方境を結ぶ稜線に出る。ハクサンフウロやタカネナデシコを写しながら歩いていたら北寒江山と寒江山は意識せずに過ぎてしまった。南の方向、雲海の上に稜線が点々と頭を出している。飯豊連峰だ。

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<雲海に浮かぶ飯豊連峰> <竜門小屋> <竜門小屋の水洗トイレ>

 竜門山の手前に竜門小屋。形は以東小屋、狐穴小屋と同じだが、室内を覗くと非常に新しい。トイレは水洗だった。小屋前で食事をとり、水分とエネルギーを補給して竜門山へ向かう。このあたりから雲が広がって山の眺めが遮られ、竜門山と西朝日岳への登りはしんどかった。ここまで数人とすれ違ったが軽装の人が多く、縦走よりも日帰りの人の方が多いようだ。このあたりには雪渓が残っていて、周辺の湿地にはニッコウキスゲが咲いている。西朝日岳を下ったら、大朝日小屋までは、まだ中岳を越えなければならない。と思っていたら、登山道は中岳のピークを巻いていた。霧が突然晴れ、大朝日岳とその肩にある大朝日小屋が見えた。手前の雪渓の近くに金玉水の水場があるようだ。金玉水で水を汲んで大朝日小屋へ。

 大朝日小屋も他と同じ二階建てだが一階は管理人の部屋とトイレで宿泊スペースは少なく、主に二階に宿泊するようになっていた。スチールのトレイを引き出してコンロが使える。二階の室内で火が使えるのはありがたい。今夜の宿泊者は13人。その後2人が到着したが、一階に泊ったようだ。管理人は85歳だそうだ。この小屋だけは10月初めまで管理人が常駐するようだ。

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<大朝日岳> <大朝日小屋内部> <日の出前の月と金星>

第三日(8/18)
 今日の歩きは昨日よりも時間がかかりそうだし、大朝日岳で日の出を迎えたくもあるので早立ちとする。日の出前の東の空に、月と金星が接近して光っている。大朝日岳山頂は良い天気。夜吹いていた風も治まってきた。過ぎてきた北の以東岳、これから向かう南の祝瓶山まで、すっきりと眺められる。鳥海山と月山、蔵王・吾妻・飯豊の連峰が周辺を取り巻いている。飯豊の右には妙高・火打や、さらには北アルプスまでが眺められるはずだが、そこまでの遠望は無理。日光や岩手山、秋田駒ヶ岳なども見通しがよければ見えるはずだが、今日は100km以上の遠方は見えないようだ。最遠は鳥海山になりそう。距離94kmくらいか。山を眺めたり写真を撮ったりしていたら、1時間以上も経ってしまった。

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<月山と左遠方に鳥海山> <大朝日岳から祝瓶山への稜線> <大玉山と祝瓶山、遠方に飯豊連峰>

 大朝日小屋に泊った15人のうちで祝瓶山方面に向かうのは私だけのようだ。平岩山に向かって下り始めてから振り返ると西朝日岳が北岳から見た仙丈岳のように見えた。平岩山の三角点に寄り道して北大玉山をめざす。東側の斜面から雲が上がってくる。雲の上になだらかな大玉山と鋭角で釣り尾根を持ったような祝瓶山の頭部が見え、遠方に飯豊連峰が横たわる。全体的には下りだが小さなアップダウンがある。北大玉山を過ぎ荒川に下る道を右に分けて下り始めると、大きなザックを背負った夫婦らしい二人連れが登ってきた。重荷でこのルートを大朝日岳に向かうのは大変だろうと思う。大玉山への登り返しが意外にきつい。大玉山を越えれば、今日最後で最大の450mの登り返しが待っている。暑さに閉口しながら汗をふきふき下っていくと、1097mの標高点の手前で水場の標識があった。リボンのぶらさがった北西方向へ少し下ってみるが、水場は遠そうなのであきらめて引き返す。今日は、500mlのペットボトル2本の水しか持ってこなかったため残りが1本の半分ほどしかない。祝瓶山を越えて麓に下るまでは水場がなさそうで辛い。残りは一口ずつ大切に口に含む。

 南アルプスの北荒川岳から塩見岳に登るような気分で(そんな感じがした)、なんとか祝瓶山の北東尾根にたどり着くと、祝瓶山の山頂から二人連れが下ってきたところだった。地元の人らしく、日帰りで桑住平から東尾根を登ってきたようだ。ザックを尾根の分岐点に置いて、空身で山頂を往復する。山頂は遮るものがなく360度の展望が得られそうだが、今日はあいにく雲が出てしまって、ごく近くの山と南東方向にダムが霞んで見えるだけだ。

 祝瓶山の北東尾根は長いがひたすら下るだけだと思っていたら、2万5千分の1地形図に示された4つの標高点はすべて登り返しがあった。下りにかかってからは、少しの登りでも辛い。大事に飲んでいた水はついになくなってしまい、水分補給のために、リンゴをかじる。段差のある所で、ザックを下ろさずに腰掛けて休むことを繰り返しながら、何とか下山できた。角楢小屋を目指して川沿いに上流へ向かう。白布吊橋を渡ったところで、沢の水を存分に補給。やれやれ。白布平のブナ林を気持ちよく歩いて角楢吊橋へ。長い丸太をワイヤでつないだ吊橋を慎重に渡る。渡った上の台地に角楢小屋はあった。

 小屋は奇麗に使われているようだが、中は少し埃っぽい。備え付けのノートを見たら、最近の記録はちょうど一週間前のものだった。薮蚊が多いので、小屋にあった蚊取り線香を使わせてもらう。宿泊料500円に蚊取り線香代として100円を追加して、箱に入れる。

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<白布吊橋> <角楢吊橋> <角楢小屋>

第四日(8/19)
 角楢吊橋を渡り、次の白布吊橋は下に最近つくられたらしい潜り橋を渡る。潜り橋は、川の中にコンクリートブロックを隙間をあけて並べてあるもので、増水した時には水没して、橋が流されたり壊されたりしないように考えられているらしい(四万十川の沈下橋の簡易版みたいなものか)。細くて不安定な吊橋よりも渡りやすい。吊橋は下流ほど立派になってきて、3番目の大石吊橋は幅が広い(が、片側に細い板が渡してあるだけだった)。茸採りの人たちがやってきて身軽に吊橋を渡っていった。大石吊橋を渡ると林道が来ていて、ここまで車が入れる。プレハブの公衆トイレがあった。

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<潜り橋> <大石吊橋> <小国町営バス>

 林道を歩き始めると突然、アブの大群に取り巻かれてしまった。30〜40匹くらいだろうか。体の周りをぐるぐる回って、じっとしていると体に留まって刺してくる。走っても逃げ切れず、帽子ではたきながら、アブに取り巻かれたまま歩く。針生平の2軒ならんだ小屋の辺りでは、アブは10匹程度に減ったものの、歩いているうちにまた増えて、平均して20匹くらいにつきまとわれた。休むこともままならず、徳網集落が見えるあたりまで来ると、アブはいつの間にかいなくなった。

 一週間のうち水曜日だけ徳網までやってくる小国町営バスに乗り込んで小国駅へ。小国駅では1時間あまりの待ち時間があったが、近くに入浴施設はなく風呂に入れず残念。米坂線、山形新幹線、中央線を乗り継いで甲府へ帰る。

Walstone
(2009/08/29記)